QCMの原理 物質の付着により周波数が変化する仕組み

 

ATカットの水晶振動子は厚みすべり振動にて振動します。 その電極部分に物質が付着した場合に、その物質の質量分のエネルギー損失が発生し、それが周波数を変化(下げる)させます。水晶振動子の電極表面に測定対象を吸着されるための物質を塗布するわけですが、その吸着物質によりある特定の物質のみに反応する選択的なセンサにもなり得ます。 周波数が変化する要因は目的の反応によるもの以外にも、

 

( QCM測定の主なノイズ要因 )
  @ 温度・湿度の影響 
  A 電源ラインからのノイズの影響
  B 風や振動など振動子の応力に影響する物理的な要因
  C コンタミによる汚染
  D スプリアスの影響 

 

などがあり、これらは全て測定の目的からすると不要ノイズとなります。これらの不安定要因を極力無くすことが正確で再現性の高い測定のために重要な技術的要因となります。 また反応膜を固着させる場合、反応膜の量が多すぎると水晶振動子のQ値が劣化して抵抗値が増加して発振回路で発振出来なくなる場合があります(これは多々あります)。反応膜の量は固着加工の前後でセンサの周波数を確認することで固着量の概算を確認することが出来ます。

 

@ QCMセンサ (圧電素子, ATカット水晶振動子)の厚みすべり運動の動き

 

     

 

 ★圧電素子は電圧を印加すると横方向への厚みすべり運動を繰り返します。

 

※ なお標準的なQCMセンサでは水晶素板との密着強度を高めるため『Au電極』の下地として『Cr電極』を施しています。

 

A QCMセンサの電極に物質が付着すると振動エネルギーが弱まり周波数が下がります

 

 

    

 

   ★物質の付着が負荷となり周波数が下がります。

 

B QCM電極上の全ての質量に反応するのではなく電極との接触部分のみが反応します

 

    
   ★電極と反応物質の付着状態が不安定な場合は反応に現れない場合があります。
   (例えば微細な綿埃がふわりと乗った状態などでは正しい反応は現れません)


 

QCMセンサの用途例 微量質量検出の用途に

 

QCMの用途としては、

 

・半導体製造工程でのアウトガス検出などの工程管理
・特定材料の特定環境化(ベーキングの前後など)での質量変化(気化した質量の検出)
・コンタミ発生の検出(工業用途や宇宙関連機器用途)
・微量液滴塗布装置の液滴塗布量チェック
・匂いセンサの研究用途
・研究所などでの微量質量検出の用途

 

などに用いられます。実際の工業用途では 『膜厚モニタ(蒸着モニタ)』 は以前から広く活用されています。

 

※ 弊社のQCM測定機器は『気相』のQCMに対応しています。
 『液相』のQCMには対応していません。

 

 

QCMセンサの周波数変化と質量変化の関係式

 

(Sauerbrey の式)
     ・ ΔF = 周波数の変化量
     ・ Fo = センサの周波数
     ・ A = 電極面積 
     ・ μ = 水晶のせん断応力 ( 2.947×10 10 kg ms )    
     ・ p = 水晶の密度 ( 2648kg / m3 )
     ・ Δm = 質量変化量

 

(例) 周波数9MHz/電極径5.0φの標準QCMセンサで、1Hz当り約1.07ngの感度になります。


 

QCMセンサの周波数と水晶素板厚さの関係

 

QCMに用いられるATカット水晶振動子(基本波)の振動周波数は厚さに比例します。

 

・ Fo = 1670 / t ( Fo = 周波数、 t = 水晶素板厚さ )

 

(例) 9MHz ( 基本波 ) の場合、上の式に当てはめると
・9*1000000 (Hz) = 1670/t  
∴ t = 1670/9*1000000 = 0.0001855・・・ ( メートル )
∴ t ≒ 0.185mm
になります。
3rdOverTone の場合は 3倍、 5thOverTone の場合は5倍になります。

 

QCMセンサの測定感度と周波数の関係

 

 QCMの測定感度は周波数により異なります。
上述の Sauerbrey の式  に当てはめて計算すると以下のようになります。
目安としてご参考にされて下さい。

センサ周波数 電極径 1Hz当たりの感度目安 最適と思われる測定レンジ
 5MHz  φ5.0mm  3.47ng  300ng〜100μg
 9MHz  φ5.0mm  1.07 ng  100ng〜30μg
 20MHz  φ5.0mm  0.22ng  20ng〜5μg
 30MHz  φ2.3mm  0.02ng  2ng〜0.5μg

 

QCMセンサは温度・振動・コンタミ(水分含む)などのノイズ成分による変動があるためノイズ分が無視できる測定レンジでの測定が適しています。

 

逆に環境が整った条件ではより感度の高い測定ができる可能性があります。

 

また実際の測定感度は以下の要素(物質の付着状況)などで異なってきます。
  ・センサ電極上での付着位置
  ・センサ電極上への付着量(付着量が増えるごとに感度が下がります)
  ・センサ電極への物質の付着状況(結合しているか否か)
  ・付着物質の粘性など
QCM単体で絶対値を測定するのは困難なため他の測定方法や結果などと照らし合わせながら使用されるのがベターです。またQCMセンサは電極中心部が最も感度が高く周辺部では感度が下がります。

 

相対的な変化などを見る場合には毎回の測定条件を同じにすることが大事です。

 

物質の付着状況としては電極全体にまんべんなく付着するか、中心点にピンポイントで微量に付着する付着状態が定量的に測定しやすい条件と言えます。
電極全体にまんべんなく付着するQCMのアプリケーションとしては『膜厚計(蒸着モニタ)』があり、QCMが古くから実用的に使用されています。

 

 

QCM測定でよくある誤解と注意事項

 

■ 測定分解能について
分解能は周波数カウンタの分解能に依存するのではなく(あまりに桁数の少ないカウンタの場合は別として)、むしろシステム全体での安定度/周波数など に依存します。

 

■ 分解能を上げるために
単純に周波数を高くすれば分解能は上がりますが、周波数が高くなると安定度は下がる傾向になり実際は単純には行かないのが現状です。 より高い周波数で安定度を保つには、より高い回路やより安定した温度制御などが必要です。

 

■ センサへの応力
QCMはATカットの水晶振動子であり、<厚みすべり振動> という機械的な運動を電気信号に変えてその変化を見る測定方法です。 したがって水晶片の外周などに固定などのために接着などを行った場合は、その分の応力が <厚みすべり振動> へ影響を与えます。電極部分以外でも、何らかの応力がセンサのどこかに加わる場合は、必ず何らかの影響を与えます。

 

■ 温度の安定度
QCMはATカットの水晶振動子ですので、その周波数は温度変化に影響を受けます ( 参考 ) 。また、例えば 0.1℃の温度変動でも、周波数には変化が現れます。グラフに変化が現れます。この変化は こちら の3次曲線のカーブとは別に、オーバーシュート的に発生するものです。

 

QCMセンサの振動子としてのパラメータ

 

センサの共振素子としてのパラメーターの測定にはネットワークアナライザまたはインピーダンスアナライザにて行います。この測定によりセンサの周波数だけでなく抵抗値や端子間容量、直列容量、またスプリアスの状態などが確認できます。
反応膜塗布後にセンサが発振しない、という場合には膜の量が多すぎて抵抗値が大きくなりすぎてしまっている場合がよくあります。

( センサ素子のパラメーター測定 )

 

主に振動子としての抵抗値をチェックします。
あまりに抵抗値が大きいと発振出来なくなるためQCM測定が出来なくなります。

( センサ素子のスプリアス測定 )

 

振動子のスプリアス状態をチェックします。
異常なスプリアスがあると正常な動作をしなくなる場合があります。
(上記例は異常なスプリアスの無いきれいな波形状態です)

 

 

関連情報