小型SMD・高精度OCXO の 周波数調整回路について
小型SMDのOCXOの周波数調整回路について、D/Aコンバーターを用いた場合の回路例と実際の測定結果をまとめています。
D/Aコンバーター及び デジタルポテンショを用いた場合の調整分解能
■U7408LF 、U7772LF 及び U8022LF の周波数調整の分解能のTypical値は以下になります。
・小型SMD-OCXO のVC周波数調整の分解能 | ||||
型番 | 周波数 | VC可変幅 | 調整電圧範囲 | ΔF/1mV (ppb=e-9) VC分解能 |
U7408LF | 10.000MHz | ±2.4ppm Typical. | +1.25V ± 1.0V | 約 2.4ppb (VC:1mV当りの変化量の平均値) |
U7772LF | 10.000MHz | 〃 | 〃 | 〃 |
U8022LF | 40.000MHz | 〃 | 〃 | 〃 |
この値から D/Aコンバータ、またはデジタルポテンショメータ を用いで周波数調整をする際の1ビット当りの調整分解能の目安はビット数に応じて計算上、以下になります ( Vref電圧は下の回路図内の Vref端子に印加する電圧です )。
・周波数調整の分解能の目安 | ||||
1bitあたり分解能 ( 計算上の Typical値 ) | ||||
Vref電圧 | 7bit (1/128) | 8bit (1/256) | 12bit (1/4096) | 16bit ( 1/65536) |
Vref = +3.3V時 | 6.19*E-8 | 3.09*E-8 | 1.93*E-9 | 1.21*E-10 |
Vref = +3.0V時 | 5.63*E-8 | 2.81*E-8 | 1.76*E-9 | 1.16*E-10 |
Vref = +2.5V時 | 4.69*E-8 | 2.34*E-8 | 1.46*E-9 | 9.16*E-11 |
外部調整素子 | デジタルポテンショメータ | D/Aコンバータ |
・ D/Aコンバーターを用いた場合の回路接続例
D/Aコンバーターの方が分解能は高くなり、また出力電圧の温度安定度も良いためこちらの周波数調整が最も推奨されます。デジタルポテンショは分解能が低く、またさらに分圧抵抗の温度特性が良くないため温度変化時の周波数安定度が劣化します。
メカニカルポテンショメータでの調整について (非推奨 ×)
メカニカルポテンショメータを用いた調整については回路構成が非常に簡単ですが、ワイパ部分の接触抵抗の変化(不安定要素)により温度変化の際に再現性の無いジャンプするような事象が見られたり、輸送時の振動などでずれが生じてしまう場合などがあります。またポテンショメータの温度特性は良くないこともあり、特性面からはD/Aコンバーターやデジタルポテンショの方が良い結果が得られます。温度変化の少ない環境での運用である場合や、輸送などの影響を考慮する必要が無い場合には特に支障のない場合もあります。
D/Aコンバーター調整回路を用いた場合の特性例 (推奨 ◎)
以下のグラフは実際にMicrochip Technology のD/Aコンバータ(MCP4726)を用いた周波数調整回路にてU7408LFの周波数温度特性を測定した実測例です。MCP4726は12ビットと分解能は高くありませんが、リーズナブルでかつ『メモリ付き』のため使いやすいデバイスです。
・D/Aコンバータ (MCP4726) ---- サンプル数:3pcs
(個別に温度特性を測定)
・OCXO U7408LF (10MHz) ---- サンプル数:2pcs
上記の組み合わせてD/Aコンバータの出力電圧の温度特性と実際のOCXOの周波数温度特性を比較しています。
( 恒温槽内で通電させて 20秒ごとに周波数及び周囲温度を測定プロット )
( OCXO測定時:温度変化率 =1℃/1分にて、Vdd=+3.3V、 Vref = +3.0V にて )
@テスト No.1
・上記のD/Aコンバータ No.1 の温度特性 (出力電圧の安定度) | |
・D/Aコンバータ No.1 を使用した際のOCXOの周波数温度特性 | |
AテストNo.2
・上記のD/Aコンバータ No.2 の温度特性 (出力電圧の安定度) | |
・D/Aコンバータ No.2 を使用した際のOCXOの周波数温度特性 | |
BテストNo.3
・上記のD/Aコンバータ No.3 の温度特性 (出力電圧の安定度) | |
・D/Aコンバータ No.3 を使用した際のOCXOの周波数温度特性 | |
(データについて)
D/Aコンバーターの出力電圧の測定はOCXOは接続せずに単体でデータを測定しています(測定時間短縮のため2℃/分の温度スロープで測定)。
D/Aコンバータにも個体差がありNo.1 と No.3 はほぼ同じ特性で(データシートのTypical値に近い特性)No.2は電圧変動がより大きくなっています。
D/AコンバータのNo.1 と No.3を使用した場合ではほぼOCXOの温度特性が出ています。サンプルに使用したOCXO(U7408LF) はNo.5の方がNo.2より単体での安定度は良い値ですが、D/AコンバータのNo.2の温度特性がちょうどOCXOの温度特性変化を打ち消すような特性になっているので、OCXOのNo.5とNo.2 の安定度が逆転しています。
調整回路の良し悪しは直接調整電圧の安定度を見ると分かりやすく、デジタルポテンショの場合でも同じ方法で評価できます。
※ 上記のD/Aコンバータの型番は実際に弊社内でテスト検証を行った際のものですが必ずしも特にこの型番が推奨型番という訳ではありません。必要な分解能やアプリケーションの要求仕様に応じて部品をご選択ください(ただメモリ内蔵タイプのD/Aコンバータは意外と少ない様です)。回路接続については実際にご使用になる型番のデータシートの内容に従って下さい。
デジタルポテンショを用いた場合の特性例 ( △ )
デジタルポテンショメータの場合はメカニカルポテンショメータよりは特性が素直になり良いのですが、温度特性が良くないため結果としてOCXOの周波数温度特性の仕様値を満たせなくなるケースがあります。
以下は例としてMicrochip Technology Inc. / MCP4541 を用いた回路接続図の例です。
デジタルポテンショメータのリファレンス電圧 (Vref)は 電源電圧(Vdd) とは別の電源として下さい。
( Microchip Technology Inc. / MCP4541 を用いた回路接続例 )
( SCL/SDA はVddへプルアップ接続します )
※ 分解能を上げるためにVref〜A、 B〜GNDの間に固定抵抗を入れて調整幅を狭くする場合は固定抵抗の温度特性もVC電圧に影響を与えるのでご留意下さい。デジタルポテンショメータ自体の温度特性はD/Aコンバーターに比べると劣るため-40〜+85℃など広い動作温度範囲では周波数温度特性が仕様値に収まらない場合があります。幅広い温度範囲で確実に使用するにはD/Aコンバーターを推奨します。
※ デジタルポテンショメータ を用いた場合は若干ですがD/Aコンバーターの場合よりも近傍の位相ノイズ特性が良くなります。これは D/Aコンバーターは出力部にアンプが内蔵されておりアンプのわずかなノイズがOCXOの位相ノイズに影響するためと考えられます。通常はあまり問題にはならないと思われますが特別に近傍位相ノイズを重視する場合にはご参考にされて下さい。
左:デジタルポテンショメータ | 右:D/Aコンバーター |
周波数固定タイプの OCXO の活用
( U7250LF の回路接続例 )
#1端子はオープンまたはGND接続するのみです。
@テスト No.1
Aテスト No.2
Bテスト No.3
※ 周波数固定タイプの U7250LF は外部要因の影響を受けることが少なく、非常に安定した特性が得られます。リフロー変動を含めた初期変動及び長期の周波数経年変化、周波数温度特性を含めた総合周波数安定度が要求されるされる安定度の規格値内であれば効率の良いソリューションになります。